2才未満の乳児開心術における
体外循環法の変遷と臨床的考察
技術、生理管理、合併症対策の統合的分析。
1960年代からの技術革新と、現代に通じる安全管理の基礎を探る。
1. 乳児体外循環技術の確立と進化
From Hypothermia to Cardiopulmonary Bypass
1962 – 1973: 転換期
初期の大容量円板型から、小容量ディスポーザブルシート型への移行期。
- ✓ 1966年以降:小容量シート型人工心肺の普及
- ✓ 1970年以降:2歳未満への積極的導入
- ✓ VSD等の複雑病変に対する安定した術野確保
対象患者の重症度
当時の体外循環対象は極めてハイリスクな群であった。
| 主要疾患 | 平均月齢 | 特徴 |
|---|---|---|
| 心室中隔欠損症 (VSD) | 15.0 | 肺高血圧合併率 78% |
| TAPVC / TGA | 新生児期 | 平均体重3kg前後の緊急例 |
2. 中核的技術とパラメータ設定
Technical Specifications & Perfusion Strategy
人工心肺装置
循研製ディスポーザブルシート型。体重によりMUS型(800cc)とMUL型(1200cc)を使い分け。
カニューレ戦略
大腿動脈送血の困難さを克服するため、上行大動脈直接挿入を標準化。
灌流設定
- 流量: 2.4 – 3.0 L/min/m²
- 体温: 31±1.8℃ (中等度低体温)
- 目標血圧: >60mmHg
充填液組成と血液希釈 (目標希釈率 20-25%)
| 成分 | 量 (標準例) | 目的 |
|---|---|---|
| 赤血球製剤 | 520 ml | 酸素運搬能の維持 |
| アルブミン製剤 | 560 ml | 膠質浸透圧の維持 |
| マンニトール | 2.5 ml/kg | 脳浮腫・腎保護 |
| 重炭酸ナトリウム | 40 ml | アシドーシス補正 |
3. 体外循環中の生理学的管理
Maintaining Homeostasis
酸塩基平衡
PCO2は一時低下するも許容範囲内。Base Excessも術後早期に正常化。
電解質・水分 (要注意)
- 血清カリウム 4.52 → 3.83 mEq/L ▼
- 体重増加率(新生児) +2.45% ▲
※低カリウム血症と水分過多は術後管理の重点項目。
ヘパリン抵抗性への対応
AT III欠乏によるACT延長不良時は、新鮮凍結血漿(FFP)やAT III製剤の補充が必須。
4. 先進技術:陰圧吸引補助脱血法 (VAVD)
Vacuum-Assisted Venous Drainage
重力脱血の限界を克服するため、静脈リザーバーに陰圧をかける手法。動物実験により、溶血を増加させることなく有意な流量増加が得られることが確認された。
吸引圧 -40mmHg時の最大血流量 (14Frカニューレ)
5. 重篤な合併症の管理
Troubleshooting & Crisis Management
急性静脈還流不全の階層的対応
第一層:回路・機械的要因
ラインのキンクやクランプを確認。
第二層:カニューレ・機能的要因
Wall Adherence。位置調整。
第三層:外科的・損傷要因(最重篤)
静脈エアロック発生時。
- Trendelenburg体位 (頭位低下) 即時実施
- カニューレ深挿入と巾着固定
- 場合により循環停止下修復
6. 臨床成績と術後管理の要点
Outcome Metrics
死亡原因の多くは術中操作よりも、術後の呼吸・循環・電解質管理に起因していた。 術後管理の質が生存率向上の鍵となる。
Post-op Essentials
呼吸管理
気道閉塞予防、加湿、早期抜管。
低カリウム血症対策
致死性不整脈予防のための積極的補正。
結論と今後の展望
技術革新と生理学的管理の標準化により、乳児体外循環の安全性は確立された。 今後は、装置の更なる小型化とVAVD等の応用により、より低体重・低月齢の新生児への適応拡大が期待される。